PRESIDENT 2023年5月19日号

PRESIDENT 2023年5月19日号

経営戦略を実現できる企業の条件

知的財産のこれまでと「これから」

ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 知的財産部 部長・井藤 浩志氏(弁理士)
北浜国際特許事務所 所長・前井 宏之(弁理士)

「知を活かす経営戦略」をスローガンに、国内外の知財関連業務を行う北浜国際特許事務所。2022年9月22日・11月25日・2023年1月27日発刊号で、同所のルーツや、昨今のSDGs領域における知財活用について解説しつつ、「知を活かす経営戦略」を実例とともに取り上げた。4回目の今回は、所長・前井宏之氏と、同所に権利化業務を一部委託するヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 知的財産部 部長・井藤浩志氏が、大企業における知財部のあり方について語る。

権利化を通して目指すのは経営戦略への貢献

前井: ヤンマーさんとお付き合いをはじめてから3年になりますね。

井藤: そうですね。以前より「経営に貢献できる知財部でありたい」と私は常々思っていて、そのポリシーに前井さんが賛同してくださったことがきっかけで一緒に仕事をさせていただくようになりました。 

前井: 私自身も権利化業務をただ淡々とこなすのではなく、北浜グループとして積み重ねてきた経営コンサルの経験を十分に活かして、お客さまの役に立ちたいと考えています。

井藤: 企業側としても、単に自社の実施技術を権利化するだけでなく、他社を牽制した上で、自社商品の市場価値や競争優位性を確保し、ひいては自社の経営に貢献できるような権利を獲得する提案をしていただきたい。その点で、御所のような存在は貴重です。

前井: 弊所のサービスは企業の経営戦略に資する知財部の支援を目的としており、最終的に企業の収益を最大化できるようなサポートを心がけています。さらに、所員は事業計画書を作成する能力を有し、企業の経営層とのディスカッションにも慣れています。そのため、経営戦略を知ることがどれほど大切なのかを理解した上で、権利化の手続きやご提案を行えるのが強みです。

井藤: 普段から企業の視点に立って仕事をされていて素晴らしいですね。加えて、御所にはさまざまな分野のプロフェッショナルがいることも強みだと思います。弊社は多岐にわたり事業を展開しているため、どんな技術分野であっても対応していただけるのはとてもありがたいです。

前井: ありがとうございます。ちなみに最近御社から依頼を受けて驚いたのは、微生物に関する権利化です。機械製品をメインに扱っている会社なのにと、事業の幅広さに衝撃を受けたのを覚えています。

井藤: あのときは、研究過程においてある微生物に野菜の病気を未然に防ぐ効果があることを見いだしたので、出願手続きを依頼しました。おっしゃる通り機械製品とは全く異なる技術分野でありバイオ系の発明になりますが、プロフェッショナルな対応をしていただき、さすがだなと感心しました。

前井: 今後はそのような食の事業に関連する分野でも研究を進めていくのでしょうか。

井藤: はい。食料危機は今後の解決すべき大きな社会課題の一つです。私たちも急速な時代の変化に対応すべく、すべての社員が「CHANGE&CHALLENGE」の精神で取り組む企業風土が醸成されており、食に限らず他の事業分野でもさまざまな研究を続けていきます。

ヤンマーが追求する持続可能な社会の実現とは

井藤: 現在弊社は、未来につながる持続可能な社会を実現するため「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を掲げ、環境負荷フリー、GHGフリーの企業となるべく挑戦しています。

前井: 消費者や投資家もSDGsを意識したサステナブルな経営や商品を支持する傾向が強くなってきていますね。

井藤: そうですね。弊社はもともとディーゼルエンジンで成長してきた会社ですが、ステークホルダーの環境意識が急激に高まった変革の時代において、我々自身も大きくChangeしないといけないという危機感があります。

前井: 具体的にはどういう取り組みをなさっているのですか。

井藤: 例えばエンジンを使用しない電動パワートレイン、つまり動力ユニットの電動化です。農業機械や建設機械等の一部のエンジンを電動パワートレインに載せ換えて2025年までの商品化を目指しています。

前井: EVを代表とする電動化技術の分野ですね。そうなると、100年以上培ってきたエンジン技術はもう捨ててしまうということですか。

井藤: いいえ、完全に捨てるわけではありません。例えば、環境負荷フリー、GHGフリー実現のために、エンジンに使用する燃料を化石燃料からバイオ燃料や水素燃料に変換する研究も進めています。ただ、燃料が変わるとエンジンをこのまま使用することはできません。そのため、新たな燃料に対応するエンジンの研究開発を同時に進める必要があります。

前井: 長年積み上げてきた財産を残した上で、時代に合った形に変化させて社会に順応していくということですね。

時代の変化を見据え「これから」を創造する

井藤: 大きな変革の時代の中、企業における知財部は今まで以上に経営層と連携し、企業の将来を考えていく必要があると私は考えています。

前井: 確かに、コーポレートガバナンス・コードも改訂された今、経営層は知的財産に対する投資を強く意識しなければなりません。一方で、多くの企業の知財部からは経営層との関わり方が難しいというお話も聞きます。どのようにコミュニケーションを図っていらっしゃるのですか。

井藤: 現在は定期的に役員とディスカッションする機会があります。知財部は、経営層の考える経営戦略、技術戦略等を理解した上で、企業が自社商品の市場価値や競争優位性を確保できるような知的財産を創造・保護・活用することが理想であり、それを経営層にも理解してもらわなければなりません。

前井: これまでの知的財産は保険のようなもので、保護に徹していた時代が続きました。変化に順応・適応できるか否かが企業の明暗を分けるこれからは、研究成果を保護するだけでなく、活用してまた新たな研究に投資していくことが極めて重要ですね。

井藤: まさにその通りです。特に昨今求められているSDGsなどに関わる環境技術は多くの時間と投資が必要なので、それに見合った回収、つまり戦略的な知財活用が今まで以上に重要となります。自社の知的財産の価値を高めてこの激しい競争に勝ち抜くことが我々のミッションだと思っています。

前井: まさにゲームチェンジャーといった立ち位置ですね。

井藤: そうですね。そのため知財部はある意味、技術者よりも先見性が必要です。今後どのように世の中が変わり、社会は何を求めるのか。最先端の技術を学び、常に世の中の状況に対して感度を高めておく必要があります。

前井: 時代を読むことが求められますね。今日のお話から、企業がおかれている現状や御社が目指しているビジョンを再認識しました。改めて、経営戦略に貢献する知財部をサポートし続ける存在でありたいと強く思います。

井藤: 弊社が今まで築き上げてきた100年の歴史を活かして次の100年を創る、大変な局面です。だからこそ御所が持っている豊富な知見を活かして、ともに戦っていただけるとありがたいです。

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