新しいIP時代 -ChatGPTは私たちのIPライフをどう変えるのか-

目次

要旨 : 最近、ChatGPTは世界中のさまざまな業界で急速に話題になっており、知的財産権業界ではChatGPTが業界にどのような影響を与えるかが注目されている。本稿では、ChatGPTを含むAI技術がもたらす課題、ChatGPTに期待される用途、および潜在的なリスクについて解説する。なお、ChatGPTの利用には著作権の問題も関係している可能性があるが、本稿はそのような問題に触れず、特許権のみに焦点を当てる。

ChatGPTとは

ChatGPTは、OpenAI※1によって開発された人工知能(AI)チャットボットで、2022年11月30日に公開された。その詳細で明確な応答ですぐに有名になり、2023年1月にはユーザー数が1億人を突破した。

ChatGPTに「ChatGPTとは」と質問をしたところ、次のように答えた。

「私がChatGPTであり、OpenAIによって開発された言語モデルです。私は、ユーザーが入力した自然言語を理解し、応答できるように、膨大なテキストデータのコーパスを使ってトレーニングされています。私の目的は、幅広いトピックに関する質問、コメント、問い合わせに対して人間のような応答を生成できるように、ユーザーを支援することです。私は、ユーザーに役に立ち、有益な応答を提供できるよう、常に学習と改善に努めています。」

つまりChatGPTとは、ユーザーの入力に対して人間のような回答を自動的に生成するAIチャットツールだ。

※1 OpenAI WEBサイト
https://openai.com/

米国におけるAIの動向

ChatGPTという特定のプラットフォームについて説明する前に、米国特許商標庁(USPTO)がAI関連の発明を通常どのように扱っているかを簡単に説明する。

2020年USPTOが発表した調査結果※2によると、米国におけるAI特許出願は2002年から2018年にかけて倍以上に増加し、2018年にはUSPTOのテクノロジーサブクラスの42%以上がAIを含む特許を扱っていた。それに対し、1976年にAIを含む特許を扱ったサブクラスはわずか9%だった。つまりAIは、発明と技術の普及にとってますます重要になってきているに違いない。

AI関連発明の審査に関して、USPTOはWEBサイト※3で「AI関連発明は、コンピュータ利用発明のサブセットとみなすことができるため、USPTOのコンピュータ利用発明に関する指針が有用なリソースとなり得る」と発表している。したがって、35USC§101に基づく主題適格性、35USC§112(a)に基づく書面記載要件、実施可能要件およびベストモード要件、35USC§112(b)に基づく明確性要件、並びに35USC§112(f)に基づく機能クレーム言語といったコンピュータ利用発明に関してよく議論される問題は、AI関連発明についても考慮する必要がある。

※2 USPTO, Public Views on Artificial Intelligence and Intellectual Property Policy, October 2020
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/USPTO_AI-Report_2020-10-07.pdf

※3 USPTO WEBサイト
https://www.uspto.gov/initiatives/artificial-intelligence/artificial-intelligence-resources

ChatGPTは共同発明者になれるのか

ChatGPTの発明者について

まず、ChatGPT自体がこの質問にどのように答えたかを見てみよう。

「AI言語モデルとして、ChatGPTは現在の米国法では共同発明者になることはできません。米国特許法では、発明者は“発明の主題を発明または発見した個人”と定義されています。“個人”の定義は厳密には自然人に限定されませんが、裁判所は、この用語には動物や機械などの人間以外の存在は含まれないと判示しました。したがって、現在の米国特許法では、AIシステムやその他の人間以外の存在を発明者として認めていません。しかし、発明プロセスにおけるAIと機械学習の使用が増加し続けているため、この問題は現在、法律および知的財産業界内で議論の対象となっています。一部の法律専門家や学者は、発明の構想に大きく貢献するAIシステムは発明者として認められ、ある程度の法的保護と認知が与えられるべきだと主張しています。しかし現時点では、米国特許商標庁(USPTO)は、AIシステムが発明者として特許出願に記載されることを許可していません。」

とても印象的な答えだと思う。

MPEP2137.01および関連判例法

上記のChatGPTの回答のように、連邦巡回控訴裁判所は「曖昧さはない : 特許法は、発明者が自然人、つまり人間でなければならないことを求めている」※4と示した。つまり、現在の米国法において、ChatGPTは、発明の創出または開発にいくら貢献したとしても、発明者として認められない。

一方、興味深いことに、USPTOは現在、AIと発明者に関するパブリックコメントを募集しています(連邦登録番号2023-03066を参照※5)。連邦官報に示されているように、AIシステムの貢献なしに特許発明が生み出され得ない場合、特許出願に記載されている自然人が、登録特許の発明者の地位(inventorship)全体を所有できるかどうかは確かに疑問である。このような特許は、該発明の真の発明者を列挙していないとして無効とされる可能性はあるのだろうか。これは未解決の問題であり、USPTOがこの問題に関して何らかのガイダンスを提供してくれることを期待している。

[注]USPTOによれば、自然人は、AIシステムをツールとして、AIシステムのアーキテクチャの設計、AIシステムに提供する特定のデータの選択、AIシステムがそのデータを処理するためのアルゴリズムの開発などに使用することにより、該発明の構想に貢献した場合、発明者(または共同発明者)として認定される。※6

※4 Thaler v. Vidal, No. 2021-2347 (Fed. Cir. 2022)
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-2347.OPINION.8-5-2022_1988142.pdf

※5 88 Fed. Reg. 9492
https://www.federalregister.gov/documents/2023/02/14/2023-03066/request-for-comments-regarding-artificial-intelligence-and-inventorship

※6 USPTO, Public Views on Artificial Intelligence and Intellectual Property Policy, October 2020
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/USPTO_AI-Report_2020-10-07.pdf

ChatGPTは知財活動にどのように役立つか

ChatGPTはさまざまな所で活用できる。以下はその例を示す。

参照リスト、図面の簡単な説明の作成

ChatGPTの機能を評価するために、次のように短い仮説の明細書を作成し、ChatGPTに参照リストを作成してもらった。

ご覧の通り、ChatGPTの回答は悪くはないものの、完璧ではなかった。それから、ChatGPTと何度かやり取りをして、どのようなリストが欲しいのかをChatGPTに「教えて」みた。やり取り後のChatGPTの回答は以下の通り。

この回答も完璧ではないかもしれないが、それで十分だと思う。この時、ChatGPTにきちんと「伝え」、「教える」ことができれば、ChatGPTはこのような単純な業務を非常に効果的かつ効率的に行えると確信した。

ただし、参照のリストを作成するために、ChatGPTに新しい発明の詳細な説明を与えてはならない。なぜなら、公開プラットフォームであるChatGPTに入力した情報はすべて公開情報とみなされるため、新規性や機密性が失われる可能性があるからだ。また、その入力情報は、営業秘密法や、第三者と結んだ機密保持契約などに違反する可能性がある。

したがって、そのようなリスクを軽減するために、代わりにChatGPTに上記の機能を実現するWORD/EXCELのVBAコード(即ち、WORD/EXCELマクロ)を作成してもらい、そのマクロをコンピュータに実行させることができる。

先行詞問題の確認

また、ChatGPTの活用例として、クレームに先行詞問題があるか否かを、ChatGPTに確認してもらうことができる。

以下は仮に作成した例である。

繰り返しますが、実際に使用するには、上記のレビューをマクロとして実行するためのVBAコードをChatGPTに書いてもらう方が良いだろう。

特定用語の定義の調べ

ChatGPTは、オンライン検索エンジンのように、特定用語に関する情報を提供することができる。ChatGPTは、質問に対して直接の回答を提供するため、その機能が複数の可能な回答を列挙するオンライン検索エンジンより便利または使いやすいかもしれない。

しかし、OpenAI自身が認めているように、ChatGPTは誤った答えを返す可能性があるため、注意が必要だ※7。また、ChatGPTは回答元を明示していないため、ChatGPTによって生成された回答の真偽を確認することが重要である。

※7 ChatGPTの欠点の一つとして、OpenAIのWEBサイトでは「ChatGPTは、もっともらしく聞こえても、不正確または無意味な回答を書くことがある」と述べている。

適用法の検索

ChatGPTは、特定の主題に関連する法律や判例を検索するのに役立つため、起訴や訴訟の際に自分の立場を裏付ける判例を探すのに最適なツールとなり得るだろう。

一方、ChatGPTのトップページには、その知識が2021年までの出来事に限定されていると記載されている。したがって、ChatGPTは2021年以降に起こった判例について十分な知識を持っていない可能性がある。

イノベーション活動の支援

ChatGPT(および他のAI技術)は既に公開されているデータベースから学習するように設計されているため、現時点ではChatGPTが斬新で独創的なアイデアを提供できるかどうかはまだ疑問である。新しいコンセプトやアイデアを生み出すことは、現在のAI技術の強みではないが、ChatGPTは発明にさらなるヒントを与えるのに役立つかもしれない。

ただし、上述したように、ChatGPTに質問を入力するときは注意が必要になる。発明に関する機密情報をChatGPTに入力していないことを確認しなければならない。

文書の翻訳

他のAIツールと同様に、ChatGPTに文章を任意の言語に翻訳してもらうことができる。

結論

ChatGPTの使い方はさまざまで、ChatGPTを適切にトレーニングすれば、私たちの作業の一部はChatGPTによってより効果的かつ効率的に行えるようになる。しかし、人間と同様、ChatGPTも完璧ではない。OpenAI自身が認めているように、ChatGPTは間違った回答を返すことがよくある。そのため、ChatGPTによって行われた作業を見直したり、専門家にアドバイスを求めたりすることをお勧めする。

参考文献

●Intellectual Property in ChatGPT, European Commission,
https://intellectual-property-helpdesk.ec.europa.eu/news-events/news/intellectual-property-chatgpt-2023-02-20_en
(最終訪問日2023年3月9日)

●Jeffrey D. Neuburger, ChatGPT Risks and the Need for Corporate Policies, The National Law Review,
https://www.natlawreview.com/article/chatgpt-risks-and-need-corporate-policies
(最終訪問日2023年3月9日)

●Joe McKendrick, Who Ultimately Owns Content Generated By ChatGPT And Other AI Platforms?,Forbes,
https://www.forbes.com/sites/joemckendrick/2022/12/21/who-ultimately-owns-content-generated-by-chatgpt-and-other-ai-platforms/?sh=17173feb5423
(最後訪問日2023年3月9日)

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