中国における実用新案審査の発展動向および対応実務

目次

要旨:中国国家知識産権局による実用新案の審査制度の改革に伴い、審査基準がより厳格化されている。本文では、脱炭素の分野に関する実用新案について、審査意見通知書を分析し、審査官による「明細書および添付図面は完全な技術案を構成できず、第26条第3項の規定に適合しない」という審査意見に対する応答案を説明する。

はじめに

中国国家知識産権局による実用新案の審査制度の改革に伴い、審査基準がより厳格化されている。例えば、専利法第2条第3項の「実用新案の保護対象に属さない」、第26条第3項の「明細書および図面は完全な技術案を構成できない」など、実用新案に係る審査規定は、実用新案の審査意見通知書において頻繁に見られる。中国国家知識産権局が10月28日に発表した「知的財産権保護の強化に関する意見」の推進計画では、2025年12月末までに「明らかに進歩性を有しない」ということを実用新案の予備審査範囲に追加すると明らかにしている。今後、該理由は実用新案の審査において一般的ないし主要な審査意見になると予想される。

一方、中国では脱炭素の重要性が高まり、排出権取引の実施に伴い、多くの企業が脱炭素や排出権取引に関連する事業に取り組んでいる。脱炭素の市場は非常に広く、多くの中国企業は脱炭素事業の展開に伴って、関連特許も積極的に展開している。本文では、脱炭素の分野に関する実用新案について審査意見通知書を分析し、審査官による「明細書および添付図面は完全な技術案を構成できず、第26条第3項の規定に適合しない」という審査意見に対する応答案を説明する。

審査意見に対する応答案

該出願は「船舶用フレットナー・ローターおよび船舶」に関し、解決しようとする技術課題が「省エネで環境に優しく、低コスト、安全で信頼性の高いフレットナー・ローターとそれを搭載した船舶を提供する」ことである。審査官は、審査により、「明細書に記載されている技術案は、従来技術および技術課題に対する説明が曖昧であるため、本願のフレットナー・ローターがどのように従来技術に対して、より環境に優しく、安全で、低コストであるというメリットを実現しているかは不明確である。明細書では、フレットナー・ローターの構造設計が欠如しており、データ比較による使用効果の説明が不足している。従って、該技術案は当業者にとって不明瞭であり、明細書に記載された内容から実現できない。また、図面に該技術案を実施するための具体的な製品構造が欠如していることから、明細書および図面に記載された内容から完全かつ明確な技術案を構成できない。よって、専利法第26条第3項の規定に適合しない」としている。

出願人は審査官の審査意見について検討を行い、該審査意見に同意できないため、実用新案の請求範囲を補正せずに、意見陳述のみで応答。

審査官の審査意見に対し、主に次の2点について反論した。

第一に、審査官の「明細書に記載されている技術案は、従来技術および技術課題に対する説明が曖昧であるため、本願のフレットナー・ローターが、どのように従来技術に対して、より環境に優しく、安全で、低コストであるというメリットを実現しているは不明確である」という審査意見について、出願人は下記3つの視点から反論している。

まず、フレットナー・ローターは従来から既に広く応用されていることで反論した。具体的には「マグヌス効果を利用して船を効率よく推進する方法が20世紀初頭から提案されていることから、従来技術におけるフレットナー・ローターは、当業者にとって周知なものであり、詳しく説明する必要がない」と述べた。

次に、フレットナー・ローターの解決しようとする課題から反論した。具体的には「フレットナー・ローター自体は、洋上風によって発生する推進力を利用して燃料の使用量を削減することで、環境に優しく、コストが低いという技術的効果を実現している。一方、本願は従来のフレットナー・ローターを基に、内筒、モーター、外筒、軸受アセンブリなどによって新たな構造を形成している。この革新的な構造によって、従来のフレットナー・ローターよりもさらに環境に優しく、低コストであるメリットを実現できる」と述べた。

最後に、本願の構造上の具体的な改良で反論した。具体的には「例えば現在の風速に応じて、フレットナー・ローターの運転を加速、減速、停止などの制御を行う制御駆動装置を設けることによって、省エネと安定運転を実現している。また、少なくとも1つのローラーを設けることにより、外筒の揺れを回避し、外筒をより安定的に支持することができる。また、避雷針が設けられた天板を設置して、落雷によるフレットナー・ローターおよび船舶上のその他の建造物や電子機器への損傷を防ぐことができる。このような進歩性のある構造により、本願は従来技術に対し、より環境に優しく、安全かつ低コストであるメリットを実現できる」と述べた。

第二に、審査官の「明細書では、フレットナー・ローターの構造設計が欠如しており、データ比較による使用効果の説明が不足している。該技術案は、当業者にとって不明瞭であり、明細書に記載された内容から実現できない。また、図面に該技術案を実施するための具体的な製品構造が欠けていることから、明細書および図面に記載された内容から完全かつ明確な技術案を構成できない」という審査意見について、出願人は、次の3つの視点から反論した。

まず「明細書では、フレットナー・ローターの構造設計が欠如している」という審査意見の反論として「明細書では、本願のフレットナー・ローターについて、下部から上部へ、内部から外部へ、部分から全体への順でその構造を詳しく記載しており、該フレットナー・ローターの構成要素、構造、接続関係、機能、位置など、内部構造および全体の外観構造を図示している。従って、構造設計が欠如しているという審査意見は不適切である」と述べた。

次に「明細書では、データ比較による使用効果の説明が不足している」という審査意見の反論として「本願の明細書および図面では、さまざまな仕様のフレットナー・ローターが異なる風速および角度で実現できる省エネ効果を明確に記載している。従って、データ比較による使用効果の説明が不足しているという審査意見は不適切である」と述べた。

最後に「本願は、明細書で単なるアイデアを創り出しているのではなく、その内部構造ならびに全体の外観についての説明と図示により、製品の具体的な構造および特徴が十分に反映され、完全かつ明確な技術案を構成できる」と詳しく説明した上で反論した。

おわりに

結果として、本願は応答後すぐに実用新案権が付与された。本願の対応から分かるように、審査官の審査意見に対し、明細書の記載に関連の不備がなく、審査官に応答意見を納得させる自信がある場合、意見陳述のみで対応すれば、拒絶のリスクを回避するためにクレームに対して補正を行う必要はない。ただし、意見陳述を行う際に、審査官が指摘した具体的な不備ごとに、明細書の記載内容を詳しく説明しなければならない。その場合、図面と合わせて記載内容が法令の規定に適合し、関連の不備が存在しないことを十分に説明する。また、場合によっては、事前に審査官と電話やメールで意思疎通を行う必要がある。

別の観点から見れば、出願人は実用新案(特に脱炭素の分野の実用新案について)明細書を作成する際に、従来技術の説明、データ比較による使用効果の説明、内部構造および全体の外観の図面など見落としやすい内容を記載しておけば、審査官が第26条第3項を引用して「明細書および図面に記載された内容から完全かつ明確な技術案を構成できない」とする場合、十分な理由で反論することができる。

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