台湾におけるグリーンテクノロジー関連特許出願に基づいた加速審査の紹介と現状

目次

要旨:2014年より、TIPO(台湾智慧財産局)は、テクノロジー産業におけるグリーンエネルギーの研究開発と展開の、進展を促進すべく、発明専利加速審査プログラムにおいて新たに「出願された発明がグリーンエネルギー技術に関連するもの」(事由4)を申請条件の一つに追加するとともに審査結果の通知期間を規定した。 本稿では、 台湾におけるグリーンテクノロジー関連特許出願に基づいた加速審査の紹介と現状を説明する。

はじめに

台湾では、出願案件について他国に対応案件がある、またはその内容が既に商業上実施されている場合、出願人は、早期審査制度「発明専利(特許)加速審査プログラム」(Accelerated Examination Program, AEP)の制度(事由1から3)を利用する。特許出願を審理する台湾智慧財産局(知的財産局,TIPO)に対して当該他国における審査資料または商業上の実施に必要な関連する証明書類を提出することで、TIPOに優先的に審査される資格を得て、早期に特許権を取得することができる。

近年、世界中で「2050年カーボンニュートラル」が目標とされ、テクノロジー産業においては、従来の太陽光発電、燃料電池、風力発電から近年のEV(電気自動車)などの産業にいたるまで、低炭素化の創出によってテクノロジー発展と環境保護の均衡を保つことに力が注がれてきた。台湾のテクノロジー産業も、グリーンテクノロジーの開発に多くのリソースを投資してきた。2014年より、TIPOは、テクノロジー産業におけるグリーンエネルギーの研究開発と展開の進展を促進すべく、発明専利加速審査プログラム(以下、AEPという)において新たに「出願された発明がグリーンエネルギー技術に関連するもの」(事由4)を申請条件の一つに追加するとともに審査結果の通知期間を規定した。

台湾におけるグリーンテクノロジー特許の加速審査の概況

2022年1月、AEP制度を時代に合わせるべく、TIPOは、事由4における用語「グリーンエネルギー技術」を「グリーンテクノロジー」に修正して国際的に産業界で慣用される表現に合致させた。また、一般出願の審査期間が短縮されている状況において、加速審査の効果をより顕著にするため、審査結果の通知期間を当初の「9カ月」から「6カ月」に短縮した。本稿では、今回のAEPの調整を切り口に、グリーンテクノロジーに基づく加速審査において実務上注意すべき事項について紹介する。

理由説明における注意事項

TIPOが公布したAEPの内容によると、事由4によって加速審査を申請する場合、出願に係る発明がグリーンテクノロジーに関連するものであることの説明を提出しなければならない。その説明においては、TIPOの審査官がグリーンテクノロジーに属する出願案件であるか否かを判断するのに役立つように、出願に係る特許請求の、どの請求項に記載される内容がグリーンテクノロジーに関連するものであるのかを明確に示さなければならない。そしてその際には明細書の内容を引用したり、技術の説明に関する書類を別添することができる。

同じくAEPの内容によると、いわゆる「グリーンテクノロジー」とは、省エネルギー技術、新エネルギー、新エネルギー自動車などの技術分野に関するもの、または、低炭素技術および資源使用量の節約などの技術に関するものをいう。また、TIPOが2022年1月1日に公布した「AEP Q&A」において、さらに例を挙げながらグリーンテクノロジーが以下の技術分野であってよいことが開示されている。すなわち、「1.太陽エネルギー、2.風力エネルギー、3.バイオエネルギー、4.水力エネルギー、5.地熱エネルギー、6.海洋エネルギー、7.水素エネルギーと燃料電池、8.二酸化炭素の貯留、9.廃棄物エネルギー、10.LED照明、11.環境に優しい自動車技術」。ただし、これらの技術分野に限定はされておらず、「出願案件に新エネルギー、代替エネルギーが含まれる場合や、環境に有益な省エネルギー製品、低炭素排出製品、資源回収再利用が含まれる場合は、いずれもグリーンテクノロジーの範囲に属し得る」とされている。このように、事由4を満たすグリーンテクノロジーは極めて広い範囲に及ぶと言える。

また、手続上、AEPを申請できるタイミングは出願人がTIPOからの実体審査開始通知または再審査開始通知を受領した後であり、AEP申請の回数に制限はない。TIPOが申請者によって説明された理由では特許出願に係る発明がグリーンテクノロジーに属するものであることを十分に証明できないと判断した場合、申請者はその他の傍証資料を提出することで、再度加速審査を請求することが可能である。

これまでの経験から言えば、特許請求の範囲の請求項がグリーンテクノロジーに関連する内容となっているか否かに注意すべきである。単に明細書にグリーンテクノロジーについて幅広く言及するだけでは足りず、説明書類において請求項のどの技術内容がグリーンテクノロジーと直接の関係があるのかを明確に示す必要がある。明細書、図面の内容またはその他の補足資料は、請求項がグリーンテクノロジーの範囲に含まれる関連技術に属することを傍証するためのものに過ぎず、それ自体は加速審査の対象となるか否かの根拠とはならない。また、上記「AEP Q&A」によれば、グリーンテクノロジーであることを説明する書類において「申請者が提出した証明書類がグリーンテクノロジーの関連範囲の研究計画の証明書類であり、当該研究計画の内容と出願に係る特許請求の範囲におけるいずれか一つの請求項との関連性が説明されていれば、当該発明がグリーンエネルギーに関するものであることを証明するに足る」と言及されている。このように、一つの請求項についてグリーンテクノロジーとの関連を示すだけで、AEP申請の要件を満たすことができるため、すべての請求項について説明する必要はない。

例えば、特許出願の技術分野が明らかにグリーンテクノロジーに属するものであり、請求項における発明の対象(subject matter)もグリーンテクノロジーと直接関連するものであれば、「電気自動車」「太陽光発電効率向上システム」「知能学習型省エネ制御システム」「燃料電池のバイポーラプレート」のように、請求項の内容を直接示すことができる。

請求項にグリーンテクノロジーに属する内容が直接記載されていないものの、例えば環境保護に関わる材料が回収時に環境破壊をもたらすことがないというような一つの技術内容が含まれる場合、明細書の記載内容を引用する、他の傍証資料を提出するなど、当該材料が環境保護の材料であると解説することで、出願に係る発明がグリーンテクノロジーの範囲に属すると証明することができる。

しかしながら、訴訟の観点から言えば、加速審査の申請のプロセスは出願案件の審査経過の一つであるため、説明書類および提出された傍証資料がいずれも包袋閲覧によって一般に公開されることに注意しなければならない。上述したように、説明書類の主な目的は請求項がグリーンテクノロジーの範囲に属すると示すこと、つまり特許請求の範囲を自ら解釈することである。従って、説明書類におけるすべての声明が将来的に特許有効性および特許権侵害を評価する根拠となり、特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼし得る。

例えば、台湾智慧財産法院(知的財産裁判所)2018年度民専上更(二)字第2号民事判決において、被告(係争特許権を侵害した疑いのある技術をもって特許出願した当事者)が加速審査において提出した説明書類は、係争特許権の侵害が完全に被告の故意によるものだと証明するものであるという主張の根拠として、係争特許の権利者によって引用されている。このことから、加速審査の説明書類は、請求項の権利範囲の解釈に直結するものであるため、将来的に自分自身に対する不利な証拠にならないよう、加速審査の説明書類における説明や用語は十分に検討する必要があることがわかる。

このように、加速審査における説明書類は出願に係る特許請求の範囲の請求項がグリーンテクノロジーに属するものであることを示す必要はあるものの、原則として請求項のうちいずれか一項について説明しさえすればよい。またAEP申請は一回に限られているわけではなく、受理されなかったとしても、資料や説明を補足して再度申請することができるため、加速審査時の過度に限定する説明が審査経過に記録されることによって、後日侵害事件において不利益をもたらすことを回避するために、説明書類または傍証資料は可能な限り簡潔なものとすることを提案する。詳細過ぎる説明は、最終的に特許請求の範囲が狭く解釈される可能性がある。

加速審査の審理期間

加速審査を経た出願の審査期間について、TIPOが2022年11月7日に公布した統計資料によると、2022年1月から10月までの統計で、事由4によってAEPを申請した案件が一次審査通知を受領するまでの平均期間は56.2日となっており、2カ月足らずでTIPO審査官の審査意見通知を受領できている。中には、僅か1カ月足らずで一次審査通知を受領したものもある。TIPOが2022年4月に公布した2021年年報における特許出願の初審査期間に公表された一次審査通知までの平均期間は8.7カ月となっており、事由4によってAEPを申請した場合の特許出願審査期間の短縮には著しい効果が見られる。

おわりに

グリーンテクノロジーを事由とする加速審査の申請について、適切な説明を付せばTIPOの許可基準を満たすような申請内容にすることは困難ではない。ただし、後日遭遇し得る特許争訟を全般的に考慮した上で、説明書類は慎重に且つ簡潔なものを作成して提出する必要がある。これにより、後日特許査定となり権利化された後でも、他人によって特許権者に不利な解釈がなされることを回避することができる。あるいは、もし出願人に特許出願する時点で既に後日加速審査を申請する意思がある場合は、請求項のうち少なくとも一つの技術がグリーンテクノロジーに関連するものであるとの説明を、直接明細書に盛り込んでおくことも一考の価値がある。当然ながらこの場合は、特許請求の範囲が狭く解釈されてしまう可能性を考慮する必要がある。しかしながら、出願時に早めに計画しておけば、後日加速審査の説明書類を提出する際に他の傍証資料を補足として提出する必要もなく、特許請求の範囲が狭く解釈される可能性も回避することができる。

グリーンテクノロジー関連であることを事由に加速審査を申請することで、他国に対応案がないまたは他国の対応案について審査結果がまだ出ていない台湾特許出願についても審査期間を極めて効果的に短縮することができ、台湾特許出願を第一国出願とする出願人が他国への出願を望む場合は、TIPOのAEP審査結果を参考にして他国に出願するか否かを判断することもできる。これは、特許の早期ポートフォリオ構築および戦略にも極めて効果的である。

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