中国のメタバースに係るGUI意匠登録出願の発展と検討

目次

要旨:中国のメタバースに係るグラフィカル・ユーザー・インターフェース(Graphical User Interface 以下、GUIという)の保護の発展および実務について、中国と他の国・地域での実務と比較研究を行い、中国の発展動向を検討する。また、アメリカ、日本および韓国におけるメタバースに係るGUIの保護方法を紹介する。

中国は2022年6月1日に新「専利法」を正式に施行し、部分意匠に対する保護を開始し、GUIについての意匠権保護も整備しつつある。仮想現実(以下、VRという)や拡張現実(以下、ARという)等の拡張現実技術に係るメタバース関連技術はマンマシンインターフェースに多く関わっており、GUIにも多く関わっている。中国のメタバースに係るGUIの保護の発展および実務について、中国と他の国・地域での実務と比較研究を行い、中国の発展動向を検討する。

部分意匠とメタバースに係るGUI保護

メタバース技術には、オペレーティングシステムインターフェース(operating systeminterface)、ソフトウェアインターフェース(software interface)、アプリケーション環境インターフェース(application environment interface)、アイコンインターフェース(icon interface)など、多くのGUIが含まれている。これらのGUIは、意匠登録により保護されると、中国および他の国・地域において、メタバースの創作者による仮想空間内での知的財産権に対する保護を効果的に促進できる。

現在、中国では、他の国・地域から部分意匠を優先権の基礎とするGUIの意匠登録出願を受けている。それに対し、最新の専利法の改正が施行される前までは、部分意匠を保護の客体としなかった。そのため、これらの中国での意匠登録出願は、部分意匠ではなく、物品の意匠である。従って、GUIの意匠登録を出願する場合、物品全体の設計図を提出する必要がある。つまり、GUIと物品媒体は離れられないうえに、物品媒体を完全に示さなければならない。その場合、部分意匠を優先権の基礎としているが、つまり、破線と実線を組み合わせた意匠を優先権の基礎として、中国で意匠登録を出願する。

一方、メタバース技術を含む多くの新技術に係るGUIは、必ずしも特定の装置やデバイス等の物品に限定されるとは限らない。そのため、物品の意匠登録出願は、中国におけるメタバース技術等の革新的な技術の発展に有利ではない。改正された「専利法」の施行に伴い、さまざまなインターフェースにおけるGUI自体は、部分意匠として保護することが可能となり、物品媒体に対する制限が更に緩和されるため、GUI意匠の物品の適用範囲が大幅に拡大され、メタバース技術に係るGUIの保護がより包括的かつ適切になる。
なお、中国では、メタバース技術に含まれる多くのゲームインターフェースや、マンマシンインターフェースに関係のない表示パターン等のコンテンツについて、意匠権を取得することができないため、部分意匠登録出願の方法で保護することができない。

諸国におけるメタバースに係るGUIの保護方法

アメリカ

アメリカ現行の「特許審査基準」には、「コンピューター生成のアイコンは、意匠の権利を請求される、外観が視覚的に変化する画像が含まれる」と規定されている。該画像は、連続的な視認性を持ち、1つの画像から別の画像への遷移の過程または期間において装飾的な特徴を有しないと理解できる。

GUIは、コンピューター生成のアイコンであるものの、その意匠登録出願の要件は、コンピューター生成のアイコンを、コンピューター、検出機またはその他の表示パネル等の「物品」の画面上に表示すると求められる。したがって、アメリカでは、GUI意匠について同じく物品媒体を必要とするが、部分意匠として保護することができる。
一般的に、アメリカでは、GUIの部分意匠は図面に保護対象を実線で示し、保護対象とならない物品媒体を破線で示すという実線と破線を組み合わせた方法で表現できる。

日本

日本では、「意匠法」でGUIについて規定しており、その保護対象は、単純な画像デザインと、物品または建築物の一部としての画像デザインおよび画像の部分デザインとが含まれている。前者は操作画像および表示画像に限定され、後者は物品または建築物の機能を発揮するために必要となる表示画像に限定されている。
したがって、日本のGUI出願は、GUIの図面のみを提出する方法と、実線と破線を組み合わせた部分意匠の画像を提出する二つの方法がある。

韓国

韓国は日本と同様に、GUI出願は、GUIの図面のみを提出する方法と、実線と破線を組み合わせた部分意匠の画像を提出する二つの方法がある。それに加えて、韓国では、GUI、特に動的GUIの参考資料として3D画像および動画を提出することが可能である。この点はとても参考になる。3D画像および画像は、GUIの状態や動きをより正確的に反映することができ、単なる文字の説明に比べ、動的GUIの連続的な変化および複数のGUIの順序論理をより直感的かつ完全に再現することができる。

中国のメタバースに係るGUI保護についての検討

現在、中国では審査指南の改正が完了していないが、公開されている意見募集案によると、GUIの意匠登録出願は「部分意匠として出願することができる。部分意匠は、図面にGUIが適用される物品を含むか含まないかの二つの方法がある」。少なくとも当該GUIのディスプレイスクリーンパネルを含む正投影図1点を提出しなければならないことを求めない。
また、意見募集案には、部分意匠の提出方法について、「実線と破線を組み合わせた方法で保護対象を表す場合、保護対象となる部分を実線で表し、その他の部分を破線で表す。また、保護対象でない部分を単一色の半透明層で覆うなど、その他の方法で保護対象を表してもよい」と言及している。このことから、今後中国のGUIの出願方法は、日本と韓国(の二つの出願方法)を参考にしていることが分かる。つまり、GUIの図面のみを提出する方法と、実線と破線の組み合わせまたは色による区別の部分意匠の画像を提出する方法である。

GUIの図面のみを提出する方法は、図面にGUIが適用される物品が含まれておらず、即ち、GUIは如何なる電子機器に適用可能であることを示している。この場合、物品の名称には「電子機器」の字句のキーワードが必要となる。
この方法は、メタバース技術に係るGUIの意匠登録出願において、特定の機器設備の物品によるGUIへの制限を大幅に低減し、GUIと機器設備の物品等の物理媒体との更なる「分離」の実現に寄与している。これは、メタバース技術に係る投影、ホログラム、VRおよびAR等、今後特定の表示画面等の物理媒体に依存しなくなるであろう、または依存しないGUIについて、中国市場におけるメタバース関連企業の革新発展の促進に寄与できるというまでもない。

さらに、審査指南の意見募集案には、動的GUIの意匠登録出願について、審査部門が必要と判断した場合、出願人に、動的GUIの変化過程を表す動画資料を求めてもよいと規定している。これは、韓国の出願実務と似ているが、中国の参考動画の提出は、審査部門が必要と判断した場合にのみ求められ、出願人自身による判断ではない。これは、主に審査効率の向上および審査リソースの節約のためだと考えられる。一方、提出される参考動画は、GUI意匠の保護範囲をさらに限定する可能性があり、「キーフレーム+簡単な説明」の方法に比べ、保護範囲が縮小される恐れがある。このような不利な影響を回避する方法について、審査指南の改正後に、具体的な実務経験と合わせて検討する必要がある。

現在、外国のメタバースに係るGUI意匠は、部分意匠を優先権の基礎として中国で出願可能であり、後願出願と先願出願の主題が関連していれば、同じく部分意匠として保護できる。また、中国においてハーグ協定が2022年5月5日に発効した。中国での保護を指定した、未公開のGUI部分意匠の国際登録出願について、国際登録の公開後に中国の国内段階に移行してもよい。日本や韓国の実質審査と違って、中国の意匠登録は方式審査のみであるため、メタバースに係るGUI部分意匠を含む中国の意匠登録の出願件数および登録件数は今後新たなピークを迎えるであろうと予測できる。

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