台湾AI関連特許出願の概況、よくある拒絶理由並びに判例分析

目次

要旨:台湾AI関連特許出願状況とよくある拒絶理由の分析を紹介する。具体的には、出願の技術分類、機能応用及び応用分野の分布と、よくある拒絶理由と、拒絶理由の分析及び提案とを論述する。さらに、「判例分析-人工知能(AI)は果たして特許出願の適格な発明者たり得るか」ということについて説明する。

はじめに

人工知能(Artificial Intelligence以下、AIという)は、通常、コンピュータプログラムを通じて人間の知性を表出する技術をいう。従って、通常、人間の知性を模倣してタスクを実行し得るシステムや機械によって実施される。これらのシステムや機械は、収集した情報を基に絶えず学習することができる。科学技術の発展傾向に対応して、人工知能は徐々に生活の隅々にまで浸透しており、人間の日常の生活スタイルに極めて大きな影響を及ぼすだけでなく、遠からず既存の多くの職業に取って代わる可能性もある。

台湾AI関連特許出願状況とよくある拒絶理由の分析

台湾におけるAI関連特許出願の概況を踏まえ、本稿ではこれら特許出願の状況を説明するとともに、AI関連特許によく見られる拒絶理由を分析して提案を行う。

出願の技術分類、機能応用及び応用分野の分布

台湾智慧財産局(知的財産局、TIPO)による2018年のAI関連特許出願の統計結果によれば、技術面では、1,567件の出願のうち、最も多くの割合を占める技術分類は「ニューラルネットワークの応用で、かつニューラルネットワークをコア技術手段とするもの」(31%)であり、次いで「非ニューラルネット系の機械学習や、機械学習に簡単に言及するもののどのような機械学習技術であるかを判断できないもの」(23%)となっている(その他の技術分類の割合については下図1を参照)。機能応用面では、特定の機能応用に言及した案件のうち「コンピュータ視覚」に関するものが49%を占め、次いで「予測分析」が29%を占めている(その他の機能応用の割合については下図2を参照)。応用分野の面では、24%の出願が「工業及び製造業」に関し、次いで17%の出願が「生命及び医療科学」である(その他の応用分野の割合については下図3を参照)。特筆すべき点としては、もっとも多くの割合を占める「工業及び製造業」の出願人の統計からみると、出願件数において主導的な地位にある出願人が、例えば、米国のKLA-Tencor Corporation、オランダのASML Netherlands B.V.、日本の株式会社半導体エネルギー研究所、台湾の財団法人工業技術研究院(ITRI)、台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)など、いずれも半導体プロセス関連の企業であり、台湾におけるAI関連特許出願の応用分野が台湾の産業と極めて高い相関性を有していることである。

本稿の図面はいずれもTIPOによる資料「我國人工智慧相關專利申請概況及申請人常見核駁理由分析」(2019年10月)から抜粋、翻訳したものである。

よくある拒絶理由

同じくTIPOによる2018年のAI関連特許出願の統計結果によれば、拒絶理由通知が出された517件の出願のうち、最も多い拒絶理由は新規性または進歩性の欠如であり(405件)、次いでクレームが不明確であること(190件)となっている(その他の拒絶理由の件数については下図4を参照)。なお、「その他」の128件は、ほとんどが「方式要件」に関する拒絶であり、補正によって容易に解消できるものであった。

拒絶理由の分析及び提案

TIPOの資料によれば、AI関連特許出願のうち、発明の定義を満たさない案件のほとんどが、「予測分析」機能を「ビジネス」や「銀行及び金融」分野に使用するものであり、次いで特定の機能がなく特定の応用もなされないものとなっている。こうした拒絶理由に対して、応答・補正後に特許査定となった案件は、いずれも明細書における技術分野に関連する多くの特徴をクレームに盛り込みつつ、それをもって全体として技術的効果を奏すると主張している。明細書が明確かつ充分に開示されていないとして拒絶された案件では、拒絶理由は主として、技術の詳細が開示されていない、明細書に記載の機能をどのように達成するのか理解できないというものである。クレームが不明確、又は明細書によってサポートされていない旨の拒絶理由については、3件のみこの理由により拒絶され、かついずれも補正することなく、「明細書に十分に記載されている」旨の応答がなされている。新規性又は進歩性の欠如については、明細書に記載の技術的特徴をクレームに盛り込むことで、特許査定となる可能性が大幅に高まる。

以上の統計及び分析から分かるように、発明の定義を満たしていないと指摘された場合、通常は、明細書に基づいて補正することで拒絶理由を解消できる。また、明細書が明確かつ充分に開示されていないとの指摘は、明細書の記載内容が不十分なことに起因するため、出願時点の明細書において技術分野と実施例が詳細かつ十分に開示されていることが極めて重要となる。更に、クレームが不明確又は明細書によってサポートされないとの拒絶理由を受けた場合は、クレームの内容を適宜調整して拒絶理由を解消する確率を高めることが望ましい。最後に、他の技術分野の出願と同様、特許性(新規性又は進歩性)を有しないと指摘された場合は、明細書の技術的特徴をクレームに追加することが特許査定されるための優先方針となる。

判例分析 人工知能(AI)は果たして特許出願の適格な発明者たり得るか

AI特許に関する訴訟において、世界的に有名な事件は、AI発明者プロジェクト(Artificial Inventor Project)チームがStephen L.Thaler氏を出願人として、同氏が開発したAI「DABUS」によってなされた発明(発明の名称は「食品容器(Food Container)」及び「注目を集めるための装置及び方法(Devices And Methods for Attracting Enhanced Attention)」)を2018年から世界各地で特許出願している事例であろう。

台湾における智慧財産及び商業法院(知的財産・商事裁判所、IPCC)は、2021年8月及び10月、台湾でのDABUS関連特許出願をめぐる訴訟に対し、EUや英国の裁判所で下された判決と同様、AIを発明者として出された特許出願は拒絶されるとの判断を示した(民国110年度*2行専訴字第3号及び第4号)。その経緯は以下のようにまとめる。

*西暦2021年に相当する。以下同様。

Thaler氏は、2019年10月17日に「食べ物又は飲料用容器」の発明、2019年11月5日に「注目を集めるための装置及び方法」の発明をそれぞれTIPOに特許出願し、AIシステムであるDABUSを発明者とした。その後TIPOは、出願人に対し「自然人」を発明者として補正するよう要求したが、出願人はDABUSを発明者とする考えを変えなかったため、最終的に当該2件の特許出願は不受理の処分が下された。出願人は、訴願(アピール)を提起したが却下されたため、IPCCに対してそれぞれ行政訴訟を提起した。

行政訴訟において、原告(特許出願人、Thaler氏)は、(1)台湾著作権法には自然人ではない「法人」が著作者として関連する権利を享受できると規定されており、同様に専利法(特許法)においても実際に創作を行うAIシステムを発明者に限定していない、(2)台湾の専利法は英米法系の国とは異なり発明者に関する文言を限定してはおらず、手続上大いに変革し得る余地が残っているため、自らに制約を課して手続上の理由で本願を拒絶するべきではない、などと主張した。

一方、被告(TIPO)は、(1)著作権と特許権は相互に法律を直接適用する関係にはない、(2)専利法には発明者が自然人でなければならないとは明文化されていないが、専利法と民法、並びに専利法の法改正の趣旨、訴訟における実務上の見解、専利法逐条釈義などの内容を照らし合わせると、発明者は自然人でなければならない、と抗弁した。

IPCCは、2件の判決において、現行法規及び関連する解釈によれば、(1)発明者は自然人でなければならない、(2)AIシステムDABUSは、上記法規又は解釈において定義されるところの「人」ではなく、台湾の法律においては「もの」と見なされ、権利の客体なのであって、権利の主体とはなり得ず、権利を享受する能力及び資格は持たない、として、TIPOによる不受理処分は違法ではないとした。興味深いのは、行政訴訟民国110年度行専訴字第3号の審理において、裁判長は先ず原告の訴訟代理人に対して「人」の定義とは何かを問い、原告の訴訟代理人が「法律上規定される人は自然人又は法人である」と答え、続いて、裁判長は訴訟の委任に関する議題を用いて、原告の訴訟代理人に「DABUSは法律の定義上法人及び自然人ではなく、原告は自らその委任を受けることはできない」ことを認めさせている点である。これによって、IPCCは、本願が自然人を発明者とすることを欠いており、TIPOによる不受理処分は違法ではないとの判決を下した。原告は2件とも上訴したが、最高行政裁判所は2022年7月及び8月、原告の訴えを退け、判決が確定している(民国110年度上字第813号及び民国111年度上字第55号)。

今般の行政判決から分かるように、台湾のIPCC及び最高行政裁判所は、現在のところ法制度の面からAIを発明者とすることが特許出願の手続の要求を満たしているか否かという問題のみを判断しているに過ぎず、その背後にあるより重要な「AIによって完成された技術は特許としての保護を受けるべきか否か」という問題、そしてより深い「適格な自然人たり得るためには、AIはどの程度まで発展させなければならないか」という基本的な命題については検討を行っていない。

台湾の判決内容は、米国、EU、英国等の裁判所が下した判決と方向性が一致している。実際に、現在の発展状況から言えば、AIを特許発明者として提出された特許出願は、ほとんどの国において困難と障害に遭遇している。従って、特許制度とAI発展の促進とのバランスをどう取るのかが、議論と発想が求められる喫緊の課題となっている。

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