韓国での自動運転関連発明の明細書および特許請求の範囲の記載要件

目次

要旨:韓国での自動運転関連発明の明細書および特許請求の範囲の記載要件を紹介する。具体的には、明細書の記載要件において、自動運転レベルに応じた記載要件と、認知、判断、制御手段に関する記載要件と、数学公式を含む発明に関する記載要件とを紹介し、特許請求の範囲の記載要件において、方法の発明、物の発明や明確かつ簡潔に記載していない例などを紹介する。

明細書の記載要件

基本事項

自動運転関連発明が容易に実施されるためには、発明を実現するための具体的な技術的手段、すなわちセンサ、カメラ、GPSなどの認知手段、コンピュータ、ECU、判断アルゴリズムなどの判断手段、エンジン、モータ、アクチュエータおよびそのコントローラなどの制御手段が明確に理解できるように記載されなければならない。ただし、具体的な技術的手段が発明の説明や図面に明示的に記載されていないか、または抽象的に記載されていても、出願時の技術水準を勘案すると通常の技術者が明確に理解できる場合には、容易に実施できるものと判断する。

自動運転レベルに応じた記載要件

①自動運転技術は、自動運転レベル1の水準の運転支援装置から漸進的に発展してきたことを考慮すると、出願当時の技術水準(自動運転レベル)に比べて過度な水準の自動運転技術が適用された場合、発明の説明が出願時の技術水準に照らして通常の技術者が発明を正確に理解し再現できるように記載されていなければ、当該発明は容易に実施できないものと判断することができる。特に、自動運転レベル5の水準の完全自動運転技術に関する発明や、これを適用した自動運転サービス発明の場合、出願当時の技術水準に照らして通常の技術者が特殊な知識を付加しなくても容易に実施できるかどうかを検討しなければならない。

(例)
[請求項]自動運転車両が他の場所のユーザをピックアップするための自動運転方法であって、(a)車庫に駐車された自動運転車両がユーザ端末から呼び出し信号を受信するステップ;(b)自動運転車両が無人状態で車庫から出車するステップ;(c)自動運転車両がユーザ端末の現在位置を目的地に設定して走行するステップ;(d)目的地に到着すると周辺の空き駐車スペースを探索して自動駐車するステップ;を含む自動運転方法。

[判断]これは自動運転レベル5の水準に該当するDoor to Door方式の無人自動運転を行う技術を請求したものであるが、仮に出願時の技術水準がレベル3(条件付き自動運転レベルで運転者が必ず搭乗し、危険状況に備えなければならない自動運転レベル)の水準に過ぎない場合、出願当時の技術水準(センサ精度、V2X通信技術、道路インフラ構築有無、コンピュータ演算水準等)では再現が難しい場合に該当する。したがって、これは出願時の自動運転技術の水準にもかかわらず、将来レベル5の水準の自動運転技術が開発されると仮定して出願したものであるため、発明の説明に過度の試行錯誤や繰り返し実験などを経ずとも、レベル5の水準のDoor to Door無人自動運転を再現できる具体的な技術的手段が記載されていないのであれば、通常の技術者が出願当時の技術水準と明細書および図面に記載した事項に基づいて容易に実施できる程度に記載されていないと判断できる。

②ADAS(先進運転支援システム)レベルの走行制御技術に関するものであって、通常の方式により周辺環境を認識し、自動的に制御される走行制御技術に関する発明の場合には、出願時の技術水準を考慮して、認知手段、判断手段、制御手段、アルゴリズム等による実現方式が発明の説明や図面に具体的に記載されていなくても、通常の技術者が容易に実施できるものとして取り扱う。

(例)
[請求項](a)自動駐車車両が空き駐車スペースを探索するステップ;(b)空き駐車スペースの中で、車両の大きさの条件を満たす空き駐車スペースを目標駐車空間に決定するステップ;(c)自動駐車車両が目標駐車空間に向かって自動駐車を遂行するステップ;を含む自動駐車方法。

[判断]「(a)自動駐車車両が空き駐車スペースを探索するステップ」に関して、発明の説明に、カメラ、超音波センサ等の検出装置を用いて駐車線および周辺物体を検出することにより空き駐車スペースを認識するとのみ記載されている場合、カメラを利用して駐車線の形態および位置を検出し、超音波センサで障害物の存在を検出して駐車が可能な空間であるかどうかを判断することは、既に広く適用される周知慣用技術であることを勘案すると、発明の説明に具体的な検出方式および判断方式が記載されていなくても、上記の記載のみで十分に実施可能なものとして取り扱う。また、「(c)自動駐車車両が目標駐車空間に向かって自動駐車を行うステップ」は、周辺障害物を認識しながら車両の駆動とステアリングを制御して駐車する自動駐車方式が周知慣用技術であることを考慮すると、発明の説明に駆動装置間の結合関係、制御手段、制御アルゴリズムなどが具体的に記載されていなくても、実施可能なものとして取り扱う。

認知、判断、制御手段に関する記載要件

自動運転関連発明が有する特有の技術的特徴が、センサ、カメラ等の認知手段、コンピューティング装置、アルゴリズム等の判断手段、モータ、アクチュエータ、コントローラ等の制御手段それ自体にあり、それによって特別な作用効果が発生する発明であるにもかかわらず、これを実現するための具体的な手段が発明の説明や図面に記載されておらず、出願時の技術水準を勘案しても通常の技術者が明確に理解できないのであれば、容易に実施できないものと判断する。

ただし、発明の説明や図面に、上記認知手段、判断手段、制御手段などを実現するための具体的な技術的手段が明確に記載されていないか、または抽象的に記載されていても、出願時の技術水準に照らして明確に把握できるのであれば、その発明を容易に実施できるものと判断することができる。

(例)
[請求項]前方の道路環境を撮影するステレオカメラ;ステレオカメラで撮影した映像を分析し、前方道路上で交通事故が発生したかどうかを判断するイメージプロセッサ;イメージプロセッサで分析した結果、前方で交通事故が発生したと判断すると、車速を5km/h以下に減速させるECU;を含む自動運転車両。

[判断]出願発明は、自動運転車両に搭載されたステレオカメラの映像を分析して交通事故が発生したと判断すると減速制御を行うものであるため、上記イメージプロセッサがカメラ映像を分析して交通事故が発生したか否かを判断する点に技術的特徴がある。したがって、映像分析を通じて前方の交通事故の有無を判断するためには、交通事故の状況を判別するための具体的な分析方式やアルゴリズムについての説明が必要である。ただ、もし発明の説明にその具体的な分析方式やアルゴリズムが記載されていなければ、これは通常の技術者が出願時の技術水準に照らして発明を実現するための具体的な手段を明確に理解することができない場合に該当するため、発明を容易に実施できる程度に明確かつ詳細に記載したものとは認め難い。

しかし、もし請求項に上記イメージプロセッサが単にステレオカメラの映像から一定距離内に先行車両が存在するか否かを判断することとのみ記載されているのであれば、あらかじめ保存された車両イメージテンプレートと撮影された映像とを比較、またはCNN(Convolution Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)のようなAIによるイメージ学習方式を通じて車両であるかどうかを判別することが自動運転技術分野の周知慣用技術であることを考慮すると、発明の説明に、一定距離内に先行車両が存在するか否かを判断するための具体的な方式やアルゴリズムが記載されていなくても、出願時の技術水準に照らして通常の技術者が明確に推定できる場合に該当するので、上記請求項の発明は容易に実施できるものと判断する。

数学公式を含む発明に関する記載要件

自動運転関連発明を実現するための具体的な手段として数学公式が含まれている場合、その発明が容易に実施されるためには数学公式に関する定義および具体的な技術的意味など数学公式の技術内容に関する説明を記載しなければならない。ただし、数学公式に関する具体的な技術内容が発明の説明や図面に明確に記載されていなくても、出願時の技術水準を勘案すると通常の技術者が明確に理解できる場合には、発明が容易に実施できないと判断しない。

また、発明の説明に数学公式に関する技術的意味が記載されていても、自動運転に関する物理的現象を数学的に表現するにあたって、物理的な矛盾点や数学的誤謬があれば、発明が明確に理解できるように記載されていない場合に該当する。

(例)
[請求項]自車両の走行速度を検出する走行速度検出部;先行車両の走行速度をV2V通信方式により受信する先行車両の走行速度受信部;前記受信した先行車両の走行速度と自車両の走行速度をもとに安全距離(L)を算出する安全距離算出部;および前記安全距離(L)を維持するように自車両の制動を自動で制御する制御部;を含み、前記安全距離(L)は、k×V1×V2×T(ここでkは比例定数、V1は先行車両の走行速度、V2は自車両の走行速度、Tは自車両の制動反応時間を示す)で定義されることを特徴とする自動制動制御装置。

[判断]数学公式で表された安全距離(L)は、比例定数(k)、先行車両の走行速度(V1)、自車両の走行速度(V2)、自車両の制動反応時間(T)を全て乗じた値で表現されているが、発明の説明に比例定数(k)について具体的に定義されておらず、正確にいかなる物理的および数学的原理によって比例定数(k)、先行車両の走行速度(V1)、自車両の走行速度(V2)、自車両の制動反応時間(T)を全て乗じた値が先行車両との衝突に対する安全を担保する距離になるのか具体的に説明されていないのであれば、これは安全距離(L)を定義した数学公式の技術的意味についての説明が具体的に記載されていないことであるので、通常の技術者が容易に実施できないものと判断する。

特許請求の範囲の記載要件

方法の発明

自動運転関連発明は車両の自動運転のために時系列的に連結された一連の処理または操作、すなわちステップを特定することにより方法の発明として請求項に記載することができる。また、交通サービスを自動運転技術で実現した営業方法に関する発明を方法の発明として記載することができる。

物の発明

自動運転関連発明は、車両それ自体、認識用センサ、交通制御のためのインフラ装置、制御装置などに関する物として請求項に記載することができる。また、自動運転関連発明は、既存の自動車技術にコンピュータ、情報通信、ソフトウェア技術などが応用された分野であるため、構造的な構成だけで表現しにくい場合には、物の発明を機能的な表現として記載することができる。

発明を明確かつ簡潔に記載していない例

①車両の特定の走行動作が人間の手動操作によって作動するのか、車両の制御装置(コンピュータ)によって自動的に作動するのか不明な場合

(例)
[請求項](a)走行中イメージセンサで撮影した映像から車線を検出して車線逸脱有無を予測するステップ;(b)車線逸脱と予測されると、運転者の注意喚起のための警報音を発生させるステップ;(c)警報音の発生後、車線逸脱防止のためステアリングホイールを回転させるステップ;(d)ステアリングホイールが回転すると、側面の他の車両の検出のための側面レーダー装置を自動的に駆動させるステップ;を含む側面衝突防止方法。

[判断]「(c)警報音の発生後、車線逸脱防止のためステアリングホイールを回転させるステップ」は、車線逸脱の予測時に運転者の注意喚起のための警報音を発生させた後、車線逸脱防止のためステアリングホイールを回転させるものであるが、上記ステアリングホイールを回転させる主体が運転者(人間)なのか、それとも車両のステアリング制御装置なのか不明である(すなわち、運転者の注意喚起のための警報によって運転者がステアリングホイールを回転させるということなのか、それとも警報後に車両のステアリング制御装置が自動的にステアリングホイールを回転させるということなのか不明である)ので、発明が明確かつ簡潔に記載されていない場合に該当する。

②請求項の末尾が「~システム」、「~装置」など物に関する発明として記載されていながら、非装置的構成要素や時系列的構成要素を含んでおり、請求の範囲の解釈上、発明のカテゴリが不明な場合

(例)
[請求項]ユーザが遠隔端末機を操作すると無人車両が遠隔駐車モードに進入し、遠隔駐車モードに進入すると車両周辺の障害物と駐車線を検出するが、検出された障害物の位置および駐車線の形状に基づいて自動駐車を行う無人車両の駐車制御システム。

[判断]請求の範囲の末尾が「無人車両の駐車制御システム」と記載されており、末尾に記載された請求の対象のみでは物に関する発明であると考えられる。ただ、その構成が時系列的な表現として記載されていて、請求の範囲全体の記載を考慮する際には、発明のカテゴリが方法に関するか、もしくは物に関するかが明確でない場合に該当する。

しかし、請求の範囲が「ユーザが遠隔端末を操作すると無人車両が遠隔駐車モードに進入するようにモードを変換させるモード変換モジュール;遠隔駐車モードに進入すると車両周辺の障害物と駐車線を検出する周辺環境検出モジュール;検出された障害物の位置および駐車線の形状に基づいて自動駐車を行う駐車制御モジュール;を含む無人車両の駐車制御システム」であれば、時系列的表現が一部含まれていても、装置的な構成要素間の結合関係を記載したものであるため、物の発明に該当して、明確に記載されたものとして扱う。

参照資料:「技術分野別審査実務ガイド」、韓国特許庁、2022年1月改訂版

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