韓国のAI関連発明の新規性および進歩性判断事例

目次

要旨:韓国のAI関連発明の新規性および進歩性判断事例を紹介する。具体的には、コンテンツ推薦装置、信用格付システム、文書種類自動分類方法、電力管理予測システム、システム障害予測装置、セキュリティ管理システム、事故車両修理費自動算定システム、ユーザの対話から感情を認識する装置などの事例を紹介する。

コンテンツ推薦装置

[請求項]特定の期間にユーザがオンラインで検索した用語に基づいてユーザの関心分野を予測し、当該ユーザの関心分野に関連したコンテンツを推薦する、人工知能を利用したコンテンツ推薦装置。

[引用発明]SNS上で特定の期間にユーザが入力した検索語に基づいてユーザの嗜好を調査し、当該ユーザの嗜好に関連するコンテンツを推薦するユーザ嗜好コンテンツ推薦装置。

[判断]出願発明と引用発明との相違点は「人工知能を利用すること」にある。だが、請求項において課題解決(ユーザの関心分野を予測し関心分野に関連したコンテンツを推薦する)のために人工知能技術をどのように実現するのかを具体的に特定しない場合には、出願時の技術水準を考慮する。その場合、ユーザの関心分野を予測する手段として出願前に公知となった人工知能技術を単に付加したことに過ぎず、通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当する。

信用格付システム

[請求項]貸出申請者の過去の金融取引内訳を入力データとし、人工ニューラルネットワークを通じて貸出申請者に対する信用度を評価する人工知能基盤信用格付システム。

[引用発明]信用格付システムが、貸出申請者の過去の金融取引内訳に基づいて、貸出申請者の現在の信用度を評価する方法。

[判断]出願発明が、貸出申請者に対する信用度を評価するために、人工ニューラルネットワークを利用してどのようにシステム化するかについて具体的に開示しておらず、引用発明には、貸出申請者の過去の金融取引内訳に基づいて現在の信用度を評価するビジネス方法が開示されている。この場合、貸出申請者の信用度を評価する方法をシステム化するために、コンピュータ等を代替して出願前に公知となった人工ニューラルネットワークに単にシステム化することは、通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当する。

文書種類自動分類方法

[請求項]コンピュータがカメラで撮影された文書イメージを入力するステップ;畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用して文書領域を推論するステップ;畳み込みニューラルネットワークを利用して文書領域に含まれた文書タイトル別に文書を分類する文書分類ステップ;を含む文書種類自動分類方法。

[引用発明]コンピュータがスキャナにより文書を読み取り、文書領域のみを区分し、回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を利用して上記文書領域から特徴を抽出し、文書を自動分類する方法。

[判断]出願発明と引用発明とは、文書イメージから文書を自動分類する点で技術分野および学習データが同一である。ただし、出願発明は学習モデルとして畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を採択しており、引用発明は回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を採択しているため、両発明は学習モデルにおいて相違点がある。しかし、出願発明が畳み込みニューラルネットワークに関して具体的に特定しておらず、当該技術分野において単に回帰型ニューラルネットワークを畳み込みニューラルネットワークに代替することは、通常の技術者による単なる設計変更事項に該当し、出願発明が引用発明と比較して予測される効果以上のより優れた効果が発生するわけでもない。したがって、出願発明は、通常の技術者が引用発明から容易に実現できると判断できるため、進歩性は認められないということができる。

電力管理予測システム

[請求項]電力設備の電力予測システムにおいて、当該電力設備周辺の気象データおよび過去の電力使用量データを収集するデータ収集部;人工ニューラルネットワーク(ANN)を利用して、データ収集部を通じて収集した気象データおよび過去の電力使用量データにより電力設備の電力使用量を予測する予測部;を含む電力管理予測システム。

[引用発明]過去の気象データと電力需要データとの相関関係をもとに、重回帰分析(multiple regression analysis)を用いて将来の電力需要を予測するシステム。

[判断]出願発明と引用発明とは、気象データと電力使用量データから電力使用量を予測する点において技術分野および入力データが同一である。ただし、出願発明は学習モデルとして人工ニューラルネットワーク(ANN)を採択しており、引用発明は重回帰分析(multiple regression analysis)を採択しているため、両発明は学習モデルにおいて相違点がある。しかし、出願発明が人工ニューラルネットワーク(ANN)に関して具体的に特定していないため、電力使用量予測分野で重回帰分析モデルを人工ニューラルネットワークに代替することは通常の技術者による単なる設計変更事項に該当し、出願発明が引用発明と比較して予測される効果以上のより優れた効果があるとは考えられない。したがって、出願発明は、通常の技術者が引用発明から容易に実現できると判断できるので、進歩性は認められないということができる。

システム障害予測装置

[請求項]システム障害予測のために、システムログデータについて正規表現式でイベント構文を分析、イベントを分類し、イベント間の相関値によって重複イベントをフィルタリングするデータ前処理過程を経て、これを障害予測用人工ニューラルネットワークモデル(ANN)に入力して学習・推論するシステム障害予測装置。

[引用発明]システムログデータについてイベント別に分析して分類し、分類されたシステムログデータを障害予測用人工ニューラルネットワークモデル(ANN)に入力して学習・推論するシステム障害予測装置。

[判断]出願発明と引用発明との構成上の相違点が「システム障害予測のための入力データのデータ前処理過程」にあり、これにより、人工ニューラルネットワークモデル(ANN)による学習・推論結果の正確度、再現率等の性能向上が予想される場合には、通常の技術者の通常の創作能力の発揮に該当しない。

セキュリティ管理システム

[請求項]CCTVが撮影した映像を入力すると、「モーショントラッキング」に関する特徴ベクトルを学習データとし、CNN学習モデルを利用して映像オブジェクトを認識する人工知能基盤セキュリティ管理システム。

[前提条件]CCTVで収集された映像から「モーショントラッキング」分析を行う技術は、出願前に公知となった技術に該当しないと仮定する。

[引用発明]CCTVが撮影した映像を学習データとし、ANN学習モデルを利用して映像オブジェクトを識別する人工知能基盤映像システム。

[判断]出願発明と引用発明とは、技術分野と学習モデル(ANNはCNNの上位概念)に共通点がある。しかし、出願発明は、CCTV撮影映像に「モーショントラッキング」に関するデータ前処理過程をさらに行うことによって、映像の中のオブジェクトの動きを考慮するほどオブジェクト認識の正確度が向上するという効果が発生し、引用発明と比較して予測される効果以上の、より優れた効果と判断できるため、進歩性が認められるということができる。

事故車両修理費自動算定システム

[請求項]事故車両を撮影した複数のイメージを入力する入力部;前記複数のイメージをCNNレイヤーに入力して破損部位と対応する少なくとも一つの部品を検出し、検出された各部品の破損レベルを出力する学習モデル出力部;前記出力された破損レベルから修理タイプ別の費用を算出し、ユーザの過去の事故履歴を照会して前記修理タイプ別の費用の保険処理時に予想されるユーザ保険料率変動予測値を導き出し、修理タイプ別の費用に保険料率変動予測値を反映した修理タイプ別の最終予想費用をユーザの端末に提供する最終予想費用算出部;前記出力された破損レベルおよび前記ユーザ端末から受信した最終予想費用を整備工場のサーバに伝送する修理費用提供部;を含む事故車両修理費自動算定システム。

[引用発明]自動車保険会社の顧客が撮影して伝送した車両事故映像をディープラーニングモデルに入力し、破損した部品、部品別の破損状態の程度を算出する保険会社サーバ。

[判断]出願発明と引用発明とは、事故車両を撮影した映像をディープラーニングモデルに入力して破損した部品を検出し、破損した程度を出力するという点で学習データおよび学習モデルが同一である。しかし、請求項に記載された発明は、結果データである破損レベルから算出した修理タイプ別の費用にユーザの過去の事故履歴による保険料率変動予測値を反映して、修理タイプ別の最終予想費用をユーザの端末に提供し、ユーザの端末から受信した最終予想費用を整備工場のサーバに伝送する構成が引用発明と相違する。請求項に記載された発明は、ユーザが選択する修理タイプによって予想される保険料の上昇をあらかじめ予測できるようにすることでユーザ便宜を高める効果が発生し、これは引用発明と比較して予測される効果以上のより優れた効果と判断できるので、進歩性が認められるということができる。

ユーザの対話から感情を認識する装置

[請求項]モバイルデバイスを通じてユーザの対話を収集する音声データ収集部;収集された音声データから、韻律データ(ピッチ、大きさ、抑揚)と音声言語データおよび非言語データ(ため息、笑い声など)を抽出する特徴抽出部;特徴抽出部で抽出したデータを学習データとし、LSTMモデルを利用したユーザの感情を学習するディープラーニング学習部;を含むユーザの対話から感情を認識する装置。

[前提条件]音声データのうち、韻律データ(ピッチ、大きさ、抑揚)と非言語データ(ため息、笑い声など)を特徴として抽出する技術は、出願前に公知となった技術に該当しないと仮定する。

[引用発明]ユーザがSNS上に掲示した文章または文書から該当する感性語だけを抽出し、当該感性語を訓練データとしてLSTMモデルを通じてユーザの感性を判断する装置。

[判断]出願発明と引用発明とは、入力情報からユーザの感性情報を検出する点において技術分野が同一であり、学習モデルとしてLSTMモデルを使用することが同一である。しかし、出願発明は、ユーザの「音声データ」固有の特徴である「韻律データ」、「非言語データ」を学習データとし、引用発明は、文字から認識された感性語テキストを学習データとしている点で技術的構成の相違があり、音声データの特徴を学習することによって感情認識率が向上する効果が発生し、これは引用発明と比較して予測される効果以上のより優れた効果と判断できるため、進歩性が認められるということができる。

参照資料:「技術分野別審査実務ガイド」、韓国特許庁、2022年1月改訂版

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