韓国のAI関連特許の最新実務情報

目次

AI関連発明の特許性判断基準

AI発明の成立要件

AI発明(人工知能発明)が「ソフトウェアによる情報処理」に基づいてコンピュータ等を利用して実現する発明であるため、原則として人工知能関連発明の成立要件の判断基準は、コンピュータ·ソフトウェア関連発明の成立要件の判断基準と同じである。

具体的な判断方法

まず、人工知能発明が自然法則を利用した技術的思想の創作であるかを検討する。ある発明が(1)自然法則以外の法則、(2)人為的な取決め、(3)人間の精神活動に該当するか、これを利用しているなど、自然法則を利用したものではない場合、(4)単なる情報の提示にすぎない場合は、当該発明は自然法則を利用した技術的思想の創作ではないため、特許法上の発明に該当しない。

例えば、生データ、学習用データセット、学習済みパラメータ等は単なる情報の提示と認められ、特許法上の発明として認められない可能性が大きい。

一方、発明が(1)機器の制御または制御のために必要な処理を具体的に行う場合、(2)対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行う場合は、当該発明は自然法則を利用した技術的思想の創作であるため、特許法上の発明に該当する。例えば、学習用プログラム、学習済みモデル、学習装置、学習方法、学習済みモデルを組み込んだ装置などは、特許法上の発明に該当し得る。

次に、当該発明が『ソフトウェアによる情報処理がハードウェアを用いて具体的に実現されている場合』に該当するかどうかを検討する。

ソフトウェアによる情報処理がハードウェアを用いて具体的に実現されている場合、すなわち、ソフトウェアとハードウェアが協働した具体的手段または具体的方法により、『使用目的に応じた特有の情報の演算または加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置 (機械) またはその動作方法』が構築されている場合、当該発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、特許法上の発明に該当する。一方、その発明においてソフトウェアによる情報処理がハードウェアを用いて具体的に実現されていない場合には、当該発明は自然法則を利用した技術的思想の創作ではないため、特許法上の発明に該当しない。

現行法上のAI構成要素別の特許性判断

AI特有のクレームドラフティング

審査基準

韓国特許庁が2020年12月に発行した「技術分野別の審査実務ガイド」には、人工知能分野の審査実務ガイドが含まれており、このガイドには記載要件(発明の説明、請求の範囲)、特許要件(発明の成立要件、新規性/進歩性)および審査事例が説明されている。このガイドによれば、人工知能関連発明は「ソフトウェアによる情報処理」に基づいてコンピュータ等を利用して実現する発明であり、記載要件および特許要件は基本的に既存の審査実務ガイド(例えば、コンピュータ関連発明の審査基準)に従う。

明細書の記載要件

発明の説明において、人工知能技術分野における通常の知識を有する者が出願時の技術常識に基づいてその発明を容易に実施できる程度に明確かつ詳細に記載されているかどうかを基準に判断する。

人工知能関連発明が容易に実施されるためには、その技術分野における通常の知識を有する者が発明を実現するための具体的な手段、発明の技術的課題およびその解決手段等が明確に理解され得るよう、発明において実現する人工知能技術に関する具体的な内容を記載しなければならない。

人工知能関連発明を実現するための具体的な手段としては、学習データ、データの前処理方法、学習モデル、損失関数(Loss Function)などがある。

ただし、人工知能関連発明を実現する具体的な手段が発明の説明や図面に明示的に記載されてはいなくても、出願時の技術常識を考慮するとき、通常の知識を有する者が明確に理解できる場合には、これを理由に発明が容易に実施できないと判断することはない。

AI特有のクレームドラフティング

AIプログラム、学習データ、ハードウェアに関して、請求項に明確かつ簡潔に記載されなければならない。このとき、AIプログラムはコンピュータ関連発明のクレームと同じ基準で記載する必要がある。学習データの場合は、学習データの区分、種類、入力値などを記載し、ハードウェアの場合は、一般装置の構成または記録媒体の形式で記載し、学習済みモデルの場合は、学習結果値は請求の範囲に記載せず、発明の詳細な説明欄にのみ記載する。

より具体的には、学習済みのAI自体の発明の場合、請求項にAIの構造や学習方法、学習データに関する内容を特定して明確かつ簡潔に記載する。その場合、ハードウェアが記載されていないため、コンピュータ関連発明のように記録媒体等に格納した形式で特定して記載しなければならない。また、AIが含まれたロボットもしくは自動化装置の場合、AI発明の必須構成要素の有無、ロボットもしくは自動化装置のハードウェアとそのハードウェアを制御するAIから構成されているという内容で記載しなければならない。このとき、AIを最小限に特定できる構成(神経回路網層、各層ごとのニューロン数、入力ニューロン、出力ニューロンなど)および学習方法や学習データに関する内容を明確かつ簡潔に記載する。

その他

韓国の場合、人工知能分野の特許出願が過去10年間で16倍に増え、韓国特許庁は、人工知能関連発明の審査を専門的に担当する「人工知能ビッグデータ審査課」を運営しており、2020年12月には人工知能発明に対する審査実務ガイドを制定した。

したがって、韓国における人工知能発明の成果に対する保護がさらに厚くなるものとみられ、審査事例がより豊富になれば、それに伴ってより具体的な審査実務ガイドも設けられるものと予想される。

参照文献
(1)「技術分野別の審査実務ガイド」、韓国特許庁、2020年
(2)「知能型ロボット分野の出願制度及び審査基準の制定に関する研究」、韓国特許庁/韓国知的財産研究院、2018年
(3)「韓国特許庁、人工知能分野審査実務ガイドを発表」、Kim&Chang許湧、2021年5月6日
(4)「韓国におけるデジタルヘルスケア分野の特許審査実務について」、韓国におけるデジタルヘルスケア分野の特許審査実務について、FirstLawPC孫世靖、2021年9月23日

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