【所員の気まぐれ書評】当所スローガンにも通ずる、これから必要になる知財戦略
目次
北浜国際特許事務所の所員が読み、知財に関わる上で役立つと感じた書籍をご紹介します。今回の書籍は「知財戦略のススメ(発行元:日経BP)」です。
「知財戦略のススメ~コモディティ化する時代に競争優位を築く~」(第1版第1刷発行:2016年2月9日)
鮫島正洋
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
代表パートナー 弁護士・弁理士
小林誠
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産グループ シニアヴァイスプレジデント
本書を選んだ理由
当所は、「知を活かす経営戦略」をスローガンに掲げています。そして当所は、経営戦略に資する、企業の知財部の支援を目的としており、最終的に企業の収益を最大化できるようなサポートを心がけています※。つまり、知財戦略は経営戦略の延長上にあるというのが当所の考え方です。
出版されてから少し時間が経過しておりますが、本書の冒頭にて著者の一人である鮫島氏が「知財と経営のリンク」が10数年間のライフワークであったと記していたことに、当所と通ずるものを感じました。中でも今回は、共感した箇所が多かった第1章についてご紹介します。
特に役立つと感じた箇所
知財を保有していてもシェアが取れない理由として、本書では「技術のコモディティ化」をあげています。
ざっくりいうと、製品の必須特許が満了すると、市場が要求する最低限のスペックの製品を後発者(非特許権者)が自由に作ることができるので、市場での先行者(特許権者)の優位性が低くなるということです。
もはや「良い物を作れば売れる」という時代は終わり、従来型の知財戦略論は限界を迎えていると本書は指摘しています。
また、本書は、今後は技術のコモディティ化の時期を予測することで、知財戦略やそれ以外の手段なども含め、経営資源を効率よく配分する指針が得られるとしています。
一方で、見方をかえると、後発者にとって技術のコモディティ化は好機です。本件について、後発者の立場での議論もおもしろいかもしれませんね。
例えば、「特許さえなければ……」と思って事業化を断念している会社などは、技術のコモディティ化の到来時期に合わせて、付加価値をつける技術開発、量産体制の整備、販路開拓、資金調達などを計画的に実行でき、経営資源を効率的に活用できます。
知財ステージごとの状況を整理する
第1章の最後には「ビジネスに必ず勝つ方法」として、知財ステージⅠ、Ⅱ、Ⅲと技術のコモディティ化とを関連させたフローチャートが掲載されています。どの知財ステージにいるか、技術のコモディティ化が起きているか否かを整理することで、今後の事業方針の判断材料になります。
図1に示すように、知財ステージⅡ(成熟期)の終了とともに技術のコモディティ化が始まり、知財ステージⅢ(衰退期)に入る場合は、技術のコモディティ化の時期予測は事業方針の決定にかなり有用です。
ただ、本書でコモディティ化の時期を予測していたデジタルカメラのように、スマートフォンの躍進で技術のコモディティ化前に衰退期が到来した場合は、どのような事業戦略・研究開発戦略・知財戦略にすべきかの判断が非常に難しいと感じました(図2)。特に成熟期については、社会環境や経済環境の変化、代替製品の出現など、本当に何が起きるかわかりません。
知財ステージ、開発ステージとプロダクト・ライフスタイルとの関係(図1)
デジタルカメラの事例(図2)
※「デジカメ出荷金額」参考元
・一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)
・「フィルム時代まで縮小したデジカメ市場の今後」
※掲載している図は書籍の内容を基に当所にて整理・デザイン処理を行っています
最後に
製品市場が順調に推移している、または安定している場合には、技術のコモディティ化の予測時期を指標に各種戦略の立案が有効と思われますが、製品市場全体が低下する場合もあります。それを予測できれば、よりよい経営資源の活用が可能でしょう。しかし、難しいことは想像にかたくありません。
繰り返しになりますが、北浜国際特許事務所は「知を活かす経営戦略」をスローガンに掲げています。
未来の予測が困難な場合でも、現実の環境に応じて、お客様が持つ「知」、我々が持つ「知」など、さまざまな「知」を最大限活用しながら、企業の成長をご支援いたします。
しまりのない終わり方ですが、思ったこと、感じたことなどをつづらせていただきました。
ご興味を持たれた方は、ぜひ本書をご一読ください。
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