中国での炭素取引の現況と将来への展望

目次

日本では脱炭素社会への移行に向け、企業などが二酸化炭素排出量の削減を売買する「排出量取引」が、2026年度から本格的に開始されます。その前段階として、2023年10月11日に東京証券取引所で新しい「カーボン・クレジット市場」が設立されました。

ここで参考として、中国での炭素取引の現況と将来への展望を簡単に紹介します。

中国での炭素取引の現況

2023年7月16日、中国全国の炭素市場は正式な立ち上げから2周年を迎えました。
中国の炭素取引市場にとって、重要な出来事が二つあります。

一つは、2017年12月、中国国務院の同意を経て、「全国炭素排出権取引市場の建設計画(発電業界)」が発表され、中国全国の炭素排出取引体制が正式に立ち上げられたことを示したこと。

もう一つは、2021年7月16日、中国全国の炭素市場オンライン取引が順調に開始されたことです。炭素排出割り当ての総取引量が初日で400万トンを超え、総取引額は2億人民元(当時、約34億円)以上となり、中国全国で行われた各試験的な炭素市場の初日オンライン取引量の合計を超えました。

2021年12月31日までに、中国の炭素排出割り当ての累計取引量は1.79億トンで、累計取引額は76.61億人民元(当時、約1400億円)、平均取引価格は1トンあたり42.85人民元(当時、約770億円)でした。また、CCER(中国認証排出削減量)の相殺メカニズムによって、一部の排出制御企業はCCERを使って割り当てを相殺。履行率は99.5%で、全国の炭素排出量取引市場の最初の義務履行サイクルは順調に終了しました。
公表された最新のデータによれば、2023年7月14日までに、全国の炭素市場の累計取引量は2.4億トンに達し、累計取引額は110億人民元(当時、約2200億円)に達しました。これは市場参加者の炭素取引への積極性と市場の活性を示し、中国の炭素市場が世界最大の炭素取引市場となり、排出削減目標の達成に重要な役割を果たしていることを示しています。
中国国内の炭素市場は、2年ごとの履行サイクルを採用しています。国内の炭素市場の最初の履行サイクルは2021年で、2019年と2020年の割り当ての履行が行われました。現在、第二の履行期に入り、期限は2023年12月31日で、2021年と2022年の割り当ての履行が行われます。

中国での炭素取引の将来への展望

中国の炭素取引市場は、世界でも最大級の規模を持つとされ、今後の展開によっては世界の炭素排出に大きな影響を及ぼす可能性があります。ただし、中国での炭素取引市場の将来性は、政策、市場参加者の多様化、国際協力、技術革新など、多くの要因に影響を受けます。

第一に、中国政策の更なる支援は炭素取引市場の将来に大きく影響するでしょう。中国政府は気候変動への対策を強調し、国内の炭素排出を削減、2060年までにカーボンニュートラルを実現させることを目標(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標)に掲げています。政府は炭素排出関連投資の促進、排出目標設定、炭素価格の上限と下限の設定、補助金の提供、CCER(中国認証排出削減量)の発行再開など、市場の運営に影響を与えることができます。

第二に、企業や金融機関などの市場参加者は、炭素取引市場の中で重要な役割を果たします。彼らの意思決定は炭素価格と市場の安定性に影響を与えます。中国で炭素市場が開始されて以来、参加者は電力業界に限られていますが、政府と規制当局は、より多くの企業(特に、石油化学、化学工業、建築材料、鋼鉄、有色金属、製紙、航空など、高い炭素排出を有する七つの産業分野)が積極的に炭素取引に参加するよう奨励し、市場の多様性と有効性を確保する必要があります。

第三に、国際協力が不可欠です。中国の炭素取引市場は、国際的な炭素市場や気候政策の影響を受ける可能性があります。国際協力パートナーとの連携、例えば他国の炭素取引システムと連携で、市場の規模と影響力を増加させることができます。協力と連携を通じて国際的な炭素市場との一体化が進めば、持続可能な未来を実現する手助けとなります。

第四に、技術革新は、中国の炭素取引市場において非常に重要です。同時に、炭素取引市場の将来は技術革新にも影響を受けると考えられます。炭素排出の監視と検証、市場取引プラットフォームの改善、データ分析と予測、クリーンエネルギー技術、市場透明性など、技術の進歩は炭素取引市場に重要な役割を果たします。

要するに、中国の炭素取引市場の将来は、政策、市場参加者、国際協力、技術革新などの複数の要因に依存しており、不確実性を伴います。中国政府のコミットメントと政策は、市場の成功のために極めて重要です。炭素取引市場が効果的に運営される場合、中国の炭素排出削減と世界の気候変動への貢献が期待できるでしょう。しかし、市場の安定性と効果的な運営を確保するためには、継続的な監視と政策サポートが必要だと考えます。

以上、中国での炭素取引の現況と将来展望を簡単に紹介しました。中国の炭素市場は成熟の道を進み、持続可能な未来への一歩として重要な役割を果たしています。今後、日中両国の炭素取引市場の更なる発展を期待しております。

参照文献

1:炭素排出量取引ウェブサイト http://www.tanpaifang.com/
2:日本総研「中国グリーン金融月報(2022年4月号)」 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102655
3:「中国の温暖化政策の動向と今後の展望」横塚仁士 https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/09052502csr.pdf
4:「中国における炭素取引の現状と展望」武学 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1776097161489368645
5:「中国における脱炭素に向けた取組・方法に関する調査」2023年3月 日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2023/e2cc18f372228ac9/2023_03.pdf

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